原資産の分布とデリバティブ価格

原資産の分布は確率密度関数がわかればいいのだが、これはTodayから満期に向かっていくほど不確実性が増していく。

Todayの確率密度関数はディラック関数である。今日の原資産価格は市場で観測できるため、不確実性がない。確率1で今日の値である。
密度関数は、将来に行くに従って不確実性が増すことで、関数形がペシャンコにつぶれていく。満期が長くなるほど、原資産は今日の値から離れる確率が高まる一方で、今日の値の近くにいる確率は下がるからだ。分布の山型のピークが、満期が長くなるほど低くなっていく。
このように、今日の値がわかっているけれども、将来に行くに従ってよくわからなくなるのが、原資産価格である。
この性質を用いて、今日から将来に向かって原資産価格を生成していくのが、ツリーやモンテカルロ法である。
 
初等的なテキストでは、原資産価格の確率密度関数が解析的に書けるような分布を用いるが、実務では、市場のスマイルにインプライされている分布に合わせないといけない。このために用いるのがスマイルモデルであり、スマイルモデルのキャリブレーションが終わっていれば、モデルを用いて数値微分することで、満期がいくら長くなっても、原資産の密度関数が出せることになる。
 
このような原資産価格と対照的なのが、デリバティブ価格である。
満期における価格は、ペイオフに一致するため、原資産価格を所与とすれば、不確実性はない。
一方で、満期からTodayにさかのぼるほど、デリバティブ価格は、不確実性が増してよくわからなくなってくる。
それがより顕著なのがバミューダンコーラブルが付いている商品だ。最後の行使日においては、継続価値はゼロであるため、価値を計算するのは容易だが、それより手前の行使日においては、継続価値がよくわからない。将来の行使価値などにも依存するからだ。
このように、満期の価格はわかっているけども、Todayの価格がわからないのが、デリバティブ価格である。
PDEやツリーではこの性質を用いて、デリバティブ価格を満期からバックワードにさかのぼって計算する。
 
このように、原資産価格とデリバティブ価格は、その生成方法が、時間軸について逆方向になっている。
つまり、原資産価格は今日から満期に向かって作るが、デリバティブ価格は満期から今日に向かって作る。
いろんな数値計算手法を学ぶ際には、このイメージを押さえておくのが重要だ。

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