【論文紹介】SABRモデルで後決め複利RFRのキャップレットを評価するには?

今日改訂版がアップされていた、こちらの論文を早速読んだので忘れないうちに要点をメモしておく。
SABR smiles for RFR caplets
https://arxiv.org/abs/2004.04501
英語の論文を読む時間がないという方向けに以下、日本語でまとめる。

Libor廃止後の金利デリバティブでは、後決めRFRの商品と先決めRFRの商品が混在することが予想されている。先決めRFRについては、現在のLiborと同様に扱えるのでいいのだが、後決めRFRについては取り扱いが異なる。特に金利オプションのプライシングはかなり影響を受けるだろう。

後決めRFRの場合は、複利計算が始まってから受け払いする金利が確定するまで、デイリーでオーバーナイトレートのFixingが行われる。このため、複利計算が進むにつれて、受け払いする金利の水準が固まっていく。デイリーの金利の平均をとったようなものを最終的には1回にまとめて受け払いするわけなので、複利計算期間の終盤になると、最後に受け払いする金利の水準はほぼ決まってしまう。これはつまり、後決め複利RFRのボラティリティが低下していくことを意味する。複利計算が始まってから時間経過に従ってボラティリティが低下することを金利モデルでは考慮しないといけない。

後決め複利の金利モデルについては、ショートレートモデルやLiborマーケットモデルなど、期間構造モデルを題材にしたペーパーがいくつか出ているが、今回紹介する論文ではSABRモデルを取り扱っている。

通常の先決め金利のSABRモデルと異なるのは、確率ボラティリティにスケーリングファクターがかかっている点である。このスケーリングファクターは、複利計算が始まるまでは常に1、そこから先は複利計算期間の最終日でゼロになるよう線形に低下していく。これによって、後決め複利のボラティリティが低下する様子を表現する。しかし時間の関数であるスケーリングファクターがかかっていることによって、モデルのダイナミクスは少し違っているため、通常のHagan近似によるSABRボラティリティはそのままでは使えない。ボラティリティの低下が考慮されないためオプションの過大評価につながるからだ。

このペーパーでは、通常のHagan近似によるSABRボラティリティの式を再利用するために、通常のSABRパラメーターから後決め複利のSABRパラメーターへの変換式を導出している。後決め複利のSABRパラメーターを、backward-looking effective SABR parametersと呼んでいる。SABRボラティリティの式を書き換えるのではなく、SABRパラメーターを書き換える。このペーパーによると、Rhoはこの変換によって水準があまり変わらないが、NuやAlphaが結構変わることになる。

さらに注意点として、このパラメーターの変換公式は、評価日が、対象となる金利の複利計算期間が始まる前なのか、始まった後なのかで式が異なる。評価日が複利計算の開始前であれば、まだFixingされているオーバーナイトレートが1つもない状態である。一方、評価日が複利計算の開始後であれば、既にFixingされているオーバーナイトレートがいくつかある状態である。どちらなのかによって、パラメーターの変換公式が異なることに注意しよう。

論文の最後では数値検証として、
・論文著者の変換公式で計算した場合
・最近Piterbargが提唱した、別の変換公式で計算した場合
・モンテカルロで計算した場合
の3つでスマイルを比較している。Piterbargの変換公式はSABRパラメーターのうちAlphaしか変換していないため、ATM以外ではモンテカルロの結果からずれているが、論文著者の変換公式はスマイル全体でモンテカルロからのずれが小さくなっている。

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